『うーむ……確かに。戦争に入る前にレベルは上げておきたい……』
『日数は余りまくってるから、蝕を喚ぶか?』
『蝕は喚んでおこう。24時間化したマス・レッサー・ヴィゴーがあれば連戦もいける』
『あ、24時間化だけど、リサイテイションにしないか』
『リサイテイション……攻撃、AC、セーヴに+3幸運ボーナス……!?』
『なん……だと……!?』
(※蝕を喚ぶ:経験点目的にランダムエンカウントを誘発する事を指す某所の造語。大抵裏目に出る)
(プレイ結果を元に捏造分が含まれています。ご注意ください)
「……半信半疑だったが」
「現実になるとは思わなかったな」
翌日、我々の手元には経箱があった。
牙で作られた首飾りのようなそれからは、死霊術に疎い私にも判るほどの力が感じられる。
ミハは「上手に盗み出してきた」と言ったが、私にはそうは思えなかった。
昨日、アルワイは経箱を手放すつもりだと言っていた。
赤手どもは一度ミハを捕らえておきながら、わざわざ経箱を与えて開放したのだ。
……なぜだ?
経箱を持ち続けていれば、死霊王本人を動かす事もできたはずだ。
竜魔将共は、わざわざ切り札を捨てた事になる。
それとも、経箱を持ち続け……死霊王を”使う”事に、何か問題があったのか?
アルワイの口調からすれば、死霊王を完全に制する事はできていなかったようだ。
いつ牙を剥くか分からない死霊王よりは、ボーンドリンカーの方が使いやすいと考えたのだろうか。
あるいは……死霊王を、我々に始末させようと言うことなのか。
我々と死霊王を争わせ、戦力を削ろうと考えていてもおかしくはない。
「では、死霊王を討ち倒しに行くとしよう。経箱があれば容易い事だ」
「……ヘルシア、少し待ってくれ」
「アドリアン、まさか、臆したのか?」
「違う。だが……ここで死霊王と戦うのは、得策では無いかも知れんのだ」
「オルト。先日の神託で、ハイローニアスは何と言っていた?」
「死霊王とは交渉の余地があるかと尋ねたところ”是”と」
「……だからと言って、リッチを見過ごすことはできない。違うか?」
「討ち倒すだけならいつでもできる。我々の目的は、リッチを倒す事ではなく──」
「──この戦争に勝つ事、か」
「そう言う事だ。とりあえずは、スクライングで様子を伺うとしよう」
「……素直に交渉に応じてくれればいいがな」
「応じなければ、その時は討ち倒す。それで良いだろう」
「……見えたぞ、死霊王だ」
経箱を手に取り、大鏡の前でスクライングを唱えること1時間。
暗い石造りの部屋の中に、干乾びた人影が見えた。
「……行くか?」
「いや、様子がおかしい……」
部屋の中でため息を吐き、傍らにうずくまるライオンのゴーストを撫でる死霊王。
ライオンは死霊王を慰めるかのように擦り寄るが、死霊王はがっくりと肩を落としつぶやく。
「……儂の経箱は、もう戻ってこんだろうな……どうしたらいいんじゃろうな……」
『なんぞこれwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『死霊王カワイソスwwwwwwwwwwwwwwwww』
『なんでこんな凹んでるんだよwwwwwwwwww』
「どうした、アドリアン!何が見える!」
「……ううむ、いや……なんと言ったものか」
「何があったのですか!」
「……少し、死霊王と話してみる」
「何だ!何があったんだ!」
「アドリアン!何が起きているのか説明を!」
『どうするこれwwwwww』
『どうするって言われても……どうしたらいいんだよwww』
『このまま死霊王殺っちゃう?』
『いや、それは酷過ぎるwwwwww』
『これは和解しておきたいなwww』
皆の呼びかけを聞き流しながら、あらかじめ準備してあったメッセージでの通話を試みる。
「死霊王……死霊王よ」
大鏡を指差しつぶやくと、死霊王は顔を上げた。
どうやら、術を通す事には成功したらしい。
「……誰だ?」
「あなたの、経箱を持つもの。ハイローニアスの信徒です」
ガタン、と死霊王が立ち上がり、あたりを見回す。
「な……なぜ、儂の経箱を!?」
「赤手の者から、経箱を奪いました」
「儂の経箱を、どうするつもりだ……?」
「あなたに経箱を返そうと思っておりますが」
「何……?」
死霊王の顔色は変わらないが、言葉の節々には戸惑いが感じられる。
無理も無いだろう。本来ならば、この経箱は即座に破壊されて然るべきなのだ。
「……儂に、何かしろというのだな?」
「そちらへ伺います。詳しい話はそれからにしましょう」
「わかった……ライオン達には手を出さぬよう言いつけておく」
『……死霊王、案外いいヤツじゃね?』
『いや、それは……どうだろうwww』
『でも、経箱返せばずっと引きこもってそうだなぁ』
「──何もするな、と?」
「そう。我々と赤手との戦いに不干渉であって貰えればそれで良いのです」
「そんな事で良いのならそうしよう。儂は、経箱が戻って来るならばそれで良いのだ」
実を言えば、死霊王との交渉には少なからず不安があった。
死霊王を目の当たりにしたヘルシア、オルトあたりが剣を抜くのでは無いかと思っていた。
だが、実際に相対してみれば、そんな事は杞憂に過ぎなかった。
経箱を失った不安と、赤手との交渉で精神をすり減らた死霊王には、もはや誰かと争う気力も残っていなかったのだ。
ペイロアの信徒達ならば、死霊王の存在そのものを許すことは無いのだろう。
だが、我々はあのような狂信者とは違う。
戦う意思の無い相手に、我々の刃が向けられる事は無いのだ。
「では、この経箱はお返ししましょう」
死霊王に経箱を手渡し、我々は遺跡を後にした。
Categorised as:D&D3.5e | 赤い手は滅びのしるし
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